アーサーおじさんのデジタルエッセイ592

日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む

第592 羽が生える前の話


 エンゼル学校では、良いエンゼルになるための教育が進んできた。
彼らは8歳になると背中の肩甲骨に付随する軟骨が発達して羽が生える準備ができる。
すると12歳でエンゼル登格試験を受けなければならないのである。
もちろんその頃は羽は空中浮遊できるための前段階の大きさに成長する。
ただし実際に空を飛ぶためには結構たいへんな実技実習が必要である。
しかも宗教的なミッションを十分に果たすほどの浮遊には、さらに訓練が伴う。
その間に雲のクレバスに足を滑らして死亡するケースも少なくはない。
 学校ではカリキュラムが工夫され、訓練期間も長くなってきた。
登格試験で上位に認定されるには、実技、型、理論の他に、神格面接がある。
ここで各自の宗教的ミッションを明確に表現できないとマイナスチェックされ、エンゼル浪人するということもある。
この勉強のために多くの座学が必要である。また、少しばかり年上の現役エンゼルに話しを聴くということなども有効なようである。
「離陸の時はな、ジャンプするのにかなり力が要るのだけれど、そいつを感じさせちゃあいけないのさ。
だから羽周りの筋力養成にコツがあるんだ」などと、先輩は鼻高そうに教えてくれる。

 ルーブル美術館にはヴィーナスの周辺を飛びまわる可愛いエンゼルの姿があるが、あれはフィクションである。
エンゼルはあの年齢では羽は生えていないし、介添え業務は訓練を積んだエリート青年エンゼルの有資格者のみに許されていることだ。
 それで10歳ごろの彼らはツルンとした肩甲骨をひくひくさせて空想するばかりである。
勉強の期間は長い。
しかし羽が使えるのはずっと後になる。遊びたいのに遊べない。
幼いエンゼルはさぼることもある。
神様が「そんなことでは、上級執事エンゼルになって女神に仕えることはできないぞ」と言うが、頭の輪っかをいじって遊んでいる。
結局は根性が悪く不機嫌な女神に仕えて、苦労する者もいるのを知っている。早くから落ちこぼれて堕天使の道に走る者もいる。
密かにそれも「かっこいい」と周囲で囁く声も聞こえてくる。
老天使が言う。
「昔はよかった。11歳までまいにち雲の上で遊んで暮らしていたからな」という。
ははは、爺さん、出世できなかったじゃないか。との声も聞こえてくる。

              
             ◎ノノ◎
             (・●・)
               

         「また、お会いしましょ」   2012年6月2日更新


日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む