アーサーおじさんのデジタルエッセイ449

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第449 スリランカが持っているもの


 世の中には、もちろんいろいろな病気がある。
内臓の病気、癌や内分泌、栄養不足による機能障害。
ストレスによる心身症や神経症。
それから感染症。
 だが一方で、必ずしも忌むべきとは言えない、運命症ともいうべき生命の願望的な病気もある。
恋の病はこちらに属すことになる。
 スリランカは当地のことばでは「輝く島」の意味だったと思う。
28年前に行ったことがある。
文字通り、太陽の光輝く明るい島で、それこそ心臓の裏側まで光が沁みこんで温められるところであった。
大地は赤い。
空は青い。
地表の樹木の葉の色が緑ではなく巨大な金色の蝶が輝いているような緑の蛍光色であった。
夕方の海岸に立つとそれらの全ての色が、仏陀の金色と紅色に変化して集約されて暮れていくのが見られた。
なにか魂の幸せというものがそこにはあると信じられた。

 しかし、まもなく民族紛争勃発ということで、観光が盛んではなくなった。
それからその島を忘れてしまうのだが、ある天気のよい日、ある植物園の温室に入った時、その光の中で、その温度、湿り気の中に、「輝く島」が再生した。
体の奥が痒くなるような幸せの感覚を想いだした。
それは、地名でも民族でも国家でもなかった。
内なる五感の中に存在する島だったのだ。
ああ、あの生命としての幸せにもう一度触れたい。
時間が経って初めて、苦しい欠乏を知ったのだ。
 ひとはどうして、自分が生まれて生きている場所以外に、引き付けられることがあるのだろう。
何故それを知るのだろう。
そこに生きる意味と謎が隠されているように感じるのは何故か。


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2009年5月23日更新


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