アーサーおじさんのデジタルエッセイ385

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第385 屋根の上の猫


 私の持っている最も古いアルバムを見ると、いろいろ驚かされる光景が展開している。
そのひとつに、幼稚園の卒園式の写真がある。
これは「三丁目の夕日」よりも、さらに前の写真である。
狭い園庭にびっしりと園児が並ばされ、父兄もその列に加わってのモノクロ写真である。
もしかしたら「マグネシウム」が「ボン!」と焚かれたかもしれない。
あれは浦島の玉手箱のように白い煙が残る。

 その頃の写真館は権威とプライドがあったから、実に上手に撮ってあるのが分かる。
ベビーブームの当時は園児の数も父兄の数も膨大である。
彼らが一斉に、レンズを見て、目を開く「一瞬を捉える」のは至難の業であったろう。
しかし背景は実に当時のものである。
周囲の住宅はよれよれ、瓦はズレてがたがた。
その右部分、屋根瓦の上になにかが写っている。
シャッターが切られるその瞬間に、隣家の屋根瓦を瘠せた猫が横切ったのだ。
写真屋の親方は「あ!」と思っただろうか、それとも暗室でネガを見た時に「な、なんだコレは!」と驚いたのか。
まるで、上半分の主人公のように、ふん、と歩いている。
これもなにか時代を捉えていると私は思う。
 幼い園児も父兄も、百人以上の彼らと同等に一匹の猫が加わったのを知らないのだ。

             ◎ノノ◎。
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2007年11月11日更新


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