アーサーおじさんのデジタルエッセイ175

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第175話 芙蓉の花の下


暑くなって来た。

喫茶店でアイスコーヒーを啜ると、目の前に公園の植え込みが見える。

ちょっと高い位置に薄いピンクの花が揺れている。

見た目はハイビスカスに似ている。

葉の形からすると芙蓉の樹である。

太陽に近いところの葉は広がって茂っているが、足元は広い隙間がある。

木漏れ日がその空間に展開していて、葡萄棚の日陰のようだ。

紫色の木陰で白髭のおじいちゃんと女の孫が座って涼んでいたイエメンの写真を思い出す。

昔の夏の風景でもある。

僕にはその黒い土と日陰の下草が昼寝のベッドに見えてしまう。

小さい頃は自由だった。

そこにちょっと寝ればよい。

今は決して出来ない。

どうしてだろう。

バンコクの歩道で裸の子供が寝ていたのを思い出す。

九州の田舎で自販機の前で猫が寝転んでいたこともあった。

僕はバンコクの子供ではなく、野良猫ではない。

それが理由で、その人通りのある都会の公園の芙蓉の花の下の木陰で昼寝をすることが出来ない。

社会的な人生は、ワイシャツで泥の上に転がることも出来ない不自由も与えられているのだろう。

自由な人々もいないわけではない。

スペイン語で「ホームレス」を表わすのはsin techo=「屋根が無い」という言葉である。


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2003年8月31日更新


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