アーサーおじさんのデジタルエッセイ156

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第156話 いつも干してあるカーペット


そそり立つマンションのグレーの壁が蜜柑色に塗られるように、朝の太陽が照り始める。

空気も水色とオレンジに塗り分けられて、混ざり始める。

その下のアスファルト道路を歩く。

曲がり角ごとに、空気の温度が違い、そこを

切り抜ける。ふと見るとアパートの壁に窓が一つあって、そこに洗濯ハンガーが掛けられ、タオルが一枚と玄関マットと思しき絨毯が干されている。

風に揺られモルタルの壁を擦りながらも、気持ち良く裏に、表に、翻る。

今日は充分に乾燥し、気持ちの良い絨毯に変身するだろう。

普通の市民の幸せという感覚。ひとつひとつの風景の切り抜きにそれぞれの幸せが満ちている。

一変して数日後、春の雨である。

マンションの壁の色も冷たく沈み、その延長のような空の壁が頭上を蔽う。

体の隙間から憂鬱と悩みが滲み出して来そうな気配。

雀も隠れ、カラスの体から墨の色が沁み落ちる。

ひたひたと足元の撥ねを気にしながら傘を使っている。

見上げると、あ、あの壁に玄関マットが揺れている。グレーの滴を受け、見離されてモルタルの壁にぶら下がっている。

あの日からそのまんまだったのだ。

気持ち良く乾燥されたと考えていた絨毯は、「春」に晒されていただけなのだ。

春は気まぐれだから大変だ。

持ち主は不在か?旅行中か?帰らない持ち主の心の中には、あの絨毯は存在しないのか。

             ◎ノノ◎
             (・●・)

      「また、お会いしましょ」 2003年4月13日更新


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