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日本渓流釣名人会釣行記

第二話 新潟県上越市桑取川

釣行日 平成13年5月9日〜5月10日

同行者 柴田、木皿儀、西川、小俣、秋元

釣 果 各5〜10、体長20cm〜28cm

 前回、佳代子と行ったときより、雪代水は治まっていました。車中から川の水を見て「うん、これなら充分釣りになる。少し太いけれど大丈夫でしょう。」と会長。我々三人、木皿儀、秋元、柴田は左又の川、別の車の小俣、西川さんは右又の川に別れて入ることにした。左又に入って、水が太いので先ずびっくり。上から見るよりもはるかに水量は多い。会長も「白百合さん達はどうしているんだろう。あんまり上迄行けないんじゃあないかな。」と心配顔。「あの二人は大丈夫でしょう。

桑取川地図

魚さえいればどこまでも上がって行きますよキット。」と私。しばらく釣り上って渡渉を繰り返すうちに危険を感じたので「もう限界です。これ以上の渡渉は出来ませんからどうぞ先を行って下さい。私はこの辺で釣りながら待っています。」と言うと会長は「先を釣って短時間で戻ってきます。」と言って秋元さんと上流に消えました。

 一人で釣っているとシモから人の気配。見ると一人の男性が凄い早さで渡渉しながら上ってきます。私が渡渉するのに危険を感じ、それこそオッカナビックリで、やっと渡った箇所を彼はこともなげに渡っきました。

六尺棒を肩に担いで、その棒の先で川底を確認しながら川を渡ります。まるで海水浴場の海岸を急ぎ足で歩いているように、その歩きぶりの早いこと。しばし彼の歩きに見とれていました。程なく私のところまで来ましたので「凄い歩きですね。恐くはないんですか?」と声を掛けると「このくらいの水量ならどうって事はないでしょう。釣りですか?こっちは山菜採りです。」と、以外と好意的に答えてくれましたので「三人で来たんですがとっても私の足では着いていけないので、仲間の二人に先へ行って貰いました。」と言うと「この水量ならどうって事はないでしょう。上へ一緒に行きましょうよ。」と誘ってくれましたが辞退して先へ行ってもらいました。しばらくすると上から秋元さんが下って来ました。「とってもダメ。行けたもんじゃあないよ。会長の後はとっても着いていけないよ。」との事。

 私が「山菜取りの人、見た?」と聞くと「見た見た。凄いよ。あの歩き方。」と秋元さん。その後しばらく待って「このまま待っていても会長は何時帰ってくるか解らないし、もう少し上へ行ってみようか?」と二人で会長の後を追って釣り上って行きました。何度目かの危険個所を渡渉(川を横断すること。片側の岸を歩いていて深くなって、これ以上進めなくなった時、浅そうな対岸へ横断する事。)して会長に追いつきました。会長は「これ以上は無理でしょう。山菜採りに会った。」と言うので「あの歩き方は凄いですね。ちょっとやそっとではとてもまねが出来ない。いくら会長でもあのマネは出来ないでしょう。?」と言うとプライドを傷つけられたのか「棒さえ持っていればあのくらい歩けるよ。」と言っていました。とにかくそれ以上は釣り上れないので納竿して戻りました。白百合の二人も戻っていて「右又も水量が多すぎてとても釣り上れない。それでコゴミを採ったけれど時間もあるので、テトラポットを渡った向こう側にもう一本、沢が有るのでそちらで釣った。距離は短いけれどまあまあ楽しめた。」と釣った岩魚を見せてくれました。二人で10匹ぐらいでした。

 釣りが出来ないので明るいうちから宴会が始まりました。白百合の二人と木皿儀のマスターと三人も料理人がいるので美味しい料理がどんどん出てきます。箸だけ持っているのは秋元さんと私だけ。大分盛り上がった頃、ポンプ小屋の爺様が機械の点検に来ましたので、缶ビールを一本御馳走しますとご機嫌で村の様子や岩魚の話をしてくれました。ダム下は夏場には水が枯れてしまうこと。漁協はあるが、下流域で鮎を放流していて山女魚や岩魚は放流していないこと。今の時期、上流の滝壺には大きな岩魚がいっぱい泳いでいること。まだ雪が多くて入って行けないこと。」等を教えてくれましたが、なまりがあるので半分しか理解できませんでした。

 翌朝、朝飯を食べていると昨日会った山菜取りの彼が来ました。声を掛けると、「昨日、川で会った人ですね。」と私を覚えていました。私もよく考えてみると先日、佳代子とテントをしている時、最後にバイクで山菜をいっぱい背負って通り過ぎていった人だったような気がしてきました。どうも昨日以前に会った気がしていました。「今年は例年より雪解けが遅れている。ちょっと早すぎると思うんだけれど、頼まれたのでタケノコ(根曲がり竹)を採りに来た。20?位採れると良いんだけれど。」と言っていました。足ごしらえをする時、私に見せてくれましたがなんと、靴底にアイゼンを履いていました。

左から木皿儀、西川、小俣の3氏

 それも、「鍛冶屋に頼んで作らせた。」と言う、歯のもの凄く長いアイゼンでした。普通では売っていないものです。あんな物を履いているから、川の中で転ばずに歩けることを納得しました。しかしとても素人では歯が長すぎて履けない物でした。

 白百合と会長の三人は左又へ、私は真ん中の沢(昨日白百合が釣った沢)、秋元さんは疲れて車の中で昼寝と決まりました。私一人で沢に入るのも不安でしたが、秋元さんは「俺は寝ている」と言うので、単独行になりました。岸上から見た時にはテトラを順番に渡っていけば訳無さそうでしたが、いざやってみると、結構大変でした。テトラの配列が、私の歩幅より広くてそれは恐い思いをしましたが何とか対岸へ渡ることが出来ました。その間秋元さんが岸上から心配して見ていました。

 沢は結構綺麗で、充分釣りを楽しむことが出来ましたが、昨日白百合の二人が釣った後なので、当たりは遠い感じでした。が、ぽつぽつ釣れました。

 釣っていると、上から例の山菜取りの彼が降りて来ました。お互いびっくりして「又会いましたね。」と挨拶。川の中で二人だけの世界で何か変わった雰囲気で、二人の距離が縮まった感じがしました。「今年はまだ釣り人は入っていないよ。この奥には35?を越える岩魚が泳いでいる釜が有る。

 それも5〜6匹見える。あそこまで行けば釣れるんだけれど。まだ今年は誰も入っていない。」「釣りはやらないんですか?」「こっちは遊んではいられないのよ。山菜はカネになるけれども、釣りはカネになんない。遊びで釣りができる人は良いなあ。俺はオマンマ食うために山に入るのさ。釣りして遊んじゃあいられないんですよ。」と言ってタバコに火を着けました。私と話すのが嫌ではないようなので少し嬉しくなって「タケノコはいっぱい採れましたか?」と聞きました。「ダメだ。10?しか採れなかった。まだ早いのよ。」「少し売ってもらえませんか?」「俺、大家さんに頼まれて採りに来たのよ。法事かなんか有るらしくて採ってくるように頼まれたのよ。20?位採れれば良かったんだけれど、10?じゃあ、どうしようもないし。アパートに住んでるんだけど、家賃滞納してるのよ。でも、あの大家さん、何にも言わないのよ。催促された事がないのよ。だから俺、庭の石をあっちへ移せとか言われたりタケノコが欲しいとか言われたら、一生懸命やるのよ。断れないのよ。だからこのタケノコは売るわけにはいかねぇんだ。」「そうですか。滞納してんですか。私は東京の不動産屋です。滞納の意味も分かっています。」と言うと、私に今までよりも親近感を持ったようで苦笑いしながら「不動産屋さんですか。それなら滞納している身がどれほど肩身の狭い事かお解りでしょう?女と逃げて来たんですよ。年間300日位山へ入っています。山が俺の隠れ家なんですよ。山に入っていさえすれば誰にも見つかりっこないですし。第一、山ん中じゃあ俺の足にだれも着いて来られないし。他人の女房連れて逃げてきたんですよ。タケノコで40万、ゼンマイ、ワラビで100万位稼げるし、娑婆は良いなぁ。山は良いなぁ。みんなで俺のことを捜してんですよ。本当は、もっと遠くへ逃げたいんだけれど、近くに87才になるお袋がいるんで、あんまり遠くへ逃げちゃうとお袋にも会え無くなっちゃうし。それでこの近くのアパート探して隠れてんですよ。」「貴方はお幾つですか?」「63才です。」「こんな山の中でスゴイお話を聞きました。これも何かの縁でしょう。私は柴田と言います。もしよろしかったらお名前を聞かせてもらえませんか?」「○△です。」  そして、分かれました。

左:柴田、右:木皿儀氏

 その後、二時間ぐらい釣って大きな雪渓に突き当たったので納竿して、引き返しましたが、流れる水色がみるみる濁ってきて直ぐにチョコレート色に変わって来ました。雪渓が崩れたのです。増水して帰れなくなってはいけないので、あせりました。一人はこういう時に怖さを感じます。何はともあれ車に戻ると秋元さんが「どうだった?釣れた?」と、車の中から起きてきました。魚籠を見せると「おう、釣れたね。」とビックリしていました。短い時間なのでオデコと思ったようです。集合場所はゆったり村の温泉と決まっていますので、我々は早めに行ってゆっくり温泉に浸かって、会長達の戻るのを待つことにしました。ところが温泉のフロントは誰も居なくて、内装屋さんらしき職人が二、三人ウロウロしています。何のことは有りません。臨時休業だったのです。

 「ゴールデウィークで休めなかったものですから、今日は臨時休業にしました。本当済みません。明日はやっていますから。」と、丁重に断られてしまいました。そこへ会長達もやってきて「えっ、休みなの?明日はやってるって?明日やってどうするの?今日帰るのに。」と、西川さんも残念そう。

 西川さんは、お風呂が大好きです。しかたなく、少し遠いいけれど名立川に有る温泉へ行きました。ゆったり村の温泉より100円安い(400円)けれど、本当は誰もゆったり村の温泉に入りたいと思っていましたが、何はともあれ汗を流すことが出来、さっぱりしました。上越市の海鮮市場で買い物をして帰りました。私は又、鯛とハタハタを土産に買いました。白百合の二人も「安いなあ。」と言って買い物をしていましたので、ここはやっぱり安いのかと思いました。帰りはみんな眠いので、高速の中で何回も運転を代わりながら東京へ着きました。

* 山の中での「駆け落ちの話」は、まるで「遠野物語」のようでした。

   それにしても、63才で駆け落ちとは凄いエネルギーですね。

次回をお楽しみに!


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 最終更新日 2001年12月2日