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レオナルド・ダ・ヴィンチ素描集 「グロテスクな顔の習作」

Five grotesque heads Five grotesque heads

Windsor,Royal Library

「グロテスクな顔の習作」
ウィンザー、王室図書館蔵

紙、ペンとインク。26.0cm×20.5cm
レオナルド・ダ・ヴィンチは街で見かけたグロテスクな容貌を再現的に描けた。

〈レオナルドの言葉>
 それを手に入れないと苦痛をおぼえそうだとさとったら、そのことをあてにしてはいけないし、それをやってみてもいけない。 (B, 21.v)


人の匂い

 小さいころは親戚の人が他人のすべてだった。親戚の庭は違う草、違う花が咲いていて、不思議な昆虫が顔を出した。そこで遊ぶことは不思議な特権のような気がしたが、相変わらず違和感が消えなかった。

 どうしてあの人たち、とりわけ老人や老女は、自分のことを見ながら笑うのか?「大きくなったなあ」と見覚えもない老人がひそひそと耳打ちをしている。知らない、気づかない振りをしながら、蟻の集まる虫の死骸を眺めたりしていた。小遣いをくれたりもする。その老人や老女の名前を知らない。漢字で書く名前なのか?ローマ字で書く名前なのか?老人が顔を近づけると何かの匂いがした。夕方にはひげが生えていて、朝より伸びていた。

 黒いひげと白いひげが混ざっていた。なにをしている人だろう。夜、起きているようだった。自分の知らないところで何をしているのだろう。あれが、他所の人だったら、僕のことをやさしくしてくれるだろうか。怒ったり、鉛筆の握り方を注意したりしないだろうか?不安と不思議な甘ったるさのなかで過ごしていたものだった。
        《アーサー記》


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