アーサーおじさんのデジタルエッセイ515

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第515 ハモン・セラーノ物語(復活編)


 ハモン・セラーノというのはスペイン料理には欠かせない豚の脚のハムである。
(私の友人に「ラモン・セラーノ」という人がいるが、それはこの話には関係がない。)
あのスペイン料理店の天井にぶら下がっている巨大イチジクのような熟成させている豚のふともも肉である。
有名な物では、別にハモン・ベジョータなどもある。
何が違うか知っていないと気付かないけれど値段は違うのである。
まあ、この蘊蓄は料理のサイトに任せるとして、私が書こうとしているのは、このハムによる歴史的な「表現」のことである。
「夜爪は切るな」という言い伝えがある。
おそらく暗がりで爪を切ろうとし、うっかり深爪をしてしまうと、昔は悪い菌などで死亡に至ることもあったのかもしれない。
けれど明るい光が一日中手に入る現代ではそういう危険は去った。
むしろ爪は夜に切ることのほうが多いかもしれない。
文化が死語を作ったのだ。
さてイスラムの「コーラン」では豚肉を食することを禁じている。
根拠は何だろう。
これは想像だけれど、おそらく他の獣肉と違って筋繊維内に住むウイルスなどが人に中毒を起こすからであり、創始者のモハメッド自身の経験から、日常生活を守るタブーとして教義にとりこんだのではないだろうか。
その苦い経験はトラウマになったのだろう。
そういえばグァム島に孤独に暮らした横井庄一さんも一度だけ野豚を食べて死ぬほどの中毒があったことを報告している。
本来は知識さえあれば克服出来た経験である。
熱処理や塩処理後の醸成で人を害することはない。
むしろグルメの好物、名品でもある。

 さてスペイン人が何故にあれほど豚ハムを好むかというと、このイスラムの教義的タブーが背景にある。
八百年近くもイスラムの支配下にあったスペイン各地が、レコンキスタ(国土の回復)でカトリックの領土を取り戻すと、支配者だったイスラムには食べることのできない豚肉を意地でも盛んにしたわけだ。
食におけるレコンキスタを宣言したのだ。
だからその習慣には復活の情熱が込められ、勝利の歓喜が後押ししたわけだ。
レストランにハモン・セラーノが何本もぶら下がっているのは、イスラム教徒には恐怖であった。
それをむしゃむしゃ食って溜飲を下げたのだろう。
 カトリックも、平らな地球を丸くしたり、輸血を認めたり?、何度も「死語的」な概念を捨てているのだから、モハメッド師が生きていたなら、そろそろ食のタブーを解いていたかもしれないと思うのだが。
         

             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2010年10月16日更新


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