アーサーおじさんのデジタルエッセイ501

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第501 ヒーローのメランコリー


 アメリカは訴訟社会なのでなかなかたいへんらしい。
かつてスーパーマンが登場した時代にはあまり取り沙汰にされなかったが、ヒーローは実はだんだんと負担が増していた。
事件解決後の訴訟処理が大変なのだ。
例えば破壊した車は支払いもローンも残っているので、営業保証費用も含めて賠償金がかさむ。
道路やビルの破壊は見積もると大変で、正当で不可避な理由に拘わらず自治体や所有者は訴訟に走る。
その賠償請求先は悪役のほうではなく、明らかに破壊の原因を作ったスーパーヒーローに負わされる。
 こうやって事後処理が膨大になるので、スーパーマンも事務所を設け、弁護士を雇って訴訟に対応せざるを得なくなったらしい。
また事後の処理は人件費も掛かるので、あらかじめコスト請求を設定せざるを得なくなったらしい。
犯人が銀行を襲っています、お幾らで来てもらえますか?と電話が入る。
ちょっと待ってください。
二千万から八千万くらいです。
え、そんなに!本来ボランティアじゃないの?ボランティアではやれないのです。
でも、正義のためではないの?ハア、正義もお金が掛かるのです。
知らなかった?ということで、だんだん評判が悪くなり、強盗に襲わせてから保険で処理するほうが損失が少ないということになった。
もともと無償労働のスーパーマンは金欠であり、おいしいものが食えなくなった。
時々コンビニや王将で見かけるという。
「このチャーハン定食、大盛りにしたら幾ら増し?」という声も聞こえた。
私は一度そういうスーパーマンを見かけたので餃子とビールをおごったら、泣いていた。
帰りの電車賃を渡そうとしたら遠慮して、「飛んで帰るので大丈夫です。
それも、けっこう疲れるけど・・」と寂しそうであった。
今はもう故人である。
(拙著:小説「しょうがない、マイフレンド」1985年作より)

 表向きの華々しさとは違い彼らは疲れている。
栄光と苦悩に満ちた日々が彼らを引き裂き、出動を求める電話に怯えるようになっている。
破壊後処理を怠ると犯罪者と同じだからだ。
拍手と称賛が終わると、次は膨大な賠償と苦情が襲ってくる。
彼らは良い生活が出来ず、うつにもなる。
だからスパイダーマンもアイアンマンも同様に、ヒーローは仮面を被るようになり二重生活者なった。
訴訟を回避するためだ。とっくに実生活を放棄したのが「ハンコック」とかいうヒーローであり、既にホームレスで暮らしている。
それでドカドカ破壊しても、あまり騒がれないでいるらしい。
ヒーローは実は、都市社会でのアイデンティティ・クライシスに悩むクライエントでもあったのだ。
 これからはヒーローに決して「頑張って!」と声を掛けるのはやめたい。
「あなたは無理にスーパーマンである必要はないのです。自分の力に合った仕事で応えてください」と声を掛けてあげたい。


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」    2010年7月3日更新


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