アーサーおじさんのデジタルエッセイ471

日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む

第471 ハトの地面  


 犬に何かを教えようとして方角を指差してやっても無駄である。
突き出した指をペロペロ舐めるだけである。
かように指を差すというのも人間の決め事に過ぎない。
 とすると、人が感じない別の世界が沢山あるだろうといえる。
地図にそって歩くのは人間のやることであり、猫は塀を越え、屋根を伝うだろう。
横断歩道のすぐ横で動物の轢死死体を見るのは憐れであっても、不思議ではない。

 私は以前から、地面よりも少し上の鳩の視線に興味を持つ。
都市に張られた電線に興味を持っていた。
その高さで生きる人生というものがあるだろうか。
ナマケモノは樹木の上にぶら下がっているらしい。
動物園で線を張ってやるとそこに掴まって暮らす。
彼らの「地面」はひとつ上にあるのだ。鳩はさらに舞い上がり、地表を水底のように見下ろしているのだろう。
そこに沈んでいる人間たちを魚群が泳ぐのを眺めるように見ている。
近年、電線が廃止されて地下化されている。
彼らにとっては、安全な平地が失われ、凸凹した山岳地帯に変わっているように思われるのではなかろうか。
私は大通りを逸れて黒い電線を張り巡らした路地を見ると、意識はその電線の高さに持ち上がり、不思議にほっとする「鳩人間」になるときがある。


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2009年11月28日更新


日本鑑定トップ | デジタルエッセイ目次 | 前に戻る | 次へ進む