アーサーおじさんのデジタルエッセイ444

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第444 草の匂い


 暖かい日差しが、やがてセーターを脱がせる。
そうして歩いていくうちに汗ばんでくる。
額の周りに羽虫がぶんぶんとうるさい。
草に座るとお尻がチクチクとする。
てんとう虫が小指に留まる。
なにもかもがムズムズする。
草の匂いは、一瞬だけヒトが動物だったことを確認させてくれる。
幸せ。

 お弁当の分け前にあずかろうと小虫が這いまわる。
それを手で除けているうちに、風に吹かれた芝がお弁当にくっつく。
地面は意外にぶよぶよで、何か遠くの鳥の声や振動がお尻からも伝わってくるようだ。
風が止まるとき、音がなくなり、雲の動くのや、木々のたわみが直接に感じられる。
世界はぐるぐる回っている。
地球は丸い。
地球が丸いことなど先生から聞かなくとも分かるのかもしれない。
後ろを向いて寝転がると背中が熱い。
太陽がストーブであることは目を閉じれば分かる。
こうやって野に出れば、たいていのことは自分の体で分かる。
そして、おとなの世界に戻って、とても時間が過ぎてから、あの草の匂いを人と話すことが出来ず、孤独になる。
それはそうだ、動物はことばを持たないので、じっと感じていることしかできないのだった。

(写真はMOさん撮影)


             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2009年4月18日更新


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