アーサーおじさんのデジタルエッセイ424

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第424 スパイの孤独


 

 昔から思っていた。アメリカであろうと、上海であろうと、北朝鮮であろうと、ゾルゲであろうと、スパイは悲しいなあと。
映画のカメラに映されないスパイの本当の人生と言うものは、孤独である。
おいしいものを食べていようと、テレビを見ていようと、深いところで、別の文脈で生きている二重の人生である。
手放しで何かを喜んだり、人を愛したりすることができない。
二重の人生は疲れる。
ベッドの中で涙が出るかもしれない。
 長い旅、深い旅をすると人は、ある時点から小さな絶望を知る。
それは絵葉書や、手紙や、積もる話の会話でも、伝わらない領域を知るからである。
もし、旅が後で人に伝えることができるなら、絵葉書で済むのである。
ここに行った。あそこに行った。
だけなら、それでよい。

深い文化の背景と、膨大な五感の刺激のリズム、そこに絡んでくる細かな感情のひだ。
それらが紡ぎあげる交響曲は、ハガキや言葉では置き換えられない。
だからこそ旅は価値があり、人を独自の孤独に追い込む。
ひりひりとした孤独は、同行者でなければ共有できない。
また、同行者でもその出来事が刻まれた音楽は違うのではあろう。
究極は伝えられない人生を背負うために人は旅に出るのである。

             ◎ノノ◎   
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2008年11月16日更新


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