アーサーおじさんのデジタルエッセイ414

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第414 嫉妬


 長い間、絵を描いてきて到達できないことがある。
もちろんそれは沢山あるが、気持ちの上で悲しくなるほどの無力感。
それは音楽のことである。
あるいは映画である。
あるいは、場合によっては15秒のCMであるということさえある。
CMの中でことばが流れ、「音」が入る。
それは「あ!」と思う、ビートルズのこともあれば、初めて耳にする島歌のこともある。
映画で主人公が、立ち上がり、意を決して突き進む。その時に曲が入る。
いきなり胸を揺さぶるのだ。
あるいは主人公を助けるために人が動く。
あるいは人を失い、立ち尽くす姿に広々とした風景が広がり、音が優しく包む。そこで涙が溢れてくる。

 絵を描く人間にはそれに近づく方法がない。
なぜあれだけのことができないのだろう。
そういう場が無いのだろう。
どれにしたって、どんなに頑張ったところで、絵は相変わらず、偉そうな額縁の中で安穏とくつろいでいる世間知らずのように思えてくることがある。
留置場のガラス越しの弁護士の説得のように、肉体から遠ざかっているようにも思えることがある。
私をいきなり包み込む絵はあっただろうか?

             ◎ノノ◎。
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2008年6月8日更新


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