アーサーおじさんのデジタルエッセイ399

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第399 ぬくもりについて


 冬日に晴天が続いて、空気は凍て付いている。
陽がかげると外気の冷たさは耐えられない。
おまけに風がヒュー、と吹き始める。
馬事公苑というところがあって、休日に馬術の試合や馬のショーが行われている。
こんな寒いところに通常ならばとてもいられない。
しかし絵の具と水彩紙を持って出たから、なんとか馬でも描きたいところだ。
もうすぐ1メートル30センチ高の障害馬術の競技があるというので、吹き曝しの観覧席で何十分も待つ。
あの黒い野球帽のような帽子を被った出場者たちがカタカナの名前の馬たちに乗って走り回る。
水彩紙を出して鉛筆を握るが手がかじかんでうまく動かせない。
どんどん体が冷えていく。

 しかしふと、全身に優しい暖かさがじわーっと広がる瞬間がある。
どうしてだろう。
 それは体を冷やす風が止まる時間であるのが分かった。
まるで、温めのお風呂に入った時のように体が感じる。
虐められる体表は、そのわずかの差を希求するのである。
それは苦しみの瞬間に差し出された手のように温かい。
 やがて冷え切って空腹のわたしは、耐え切れなくなって公園内のレストランに飛び込む。
暫くその温もりの中でかじかんだ手を摩り、次第に人の体温に還っていく。
不思議だ。体が温かくなると、突然に屋内の空気がそれまで感じていた温度でなくなり、寒く感じられるのだ。
まるで最初とは違って、もう歓迎されていないみたいに。
 人体のメカニズムなのか、心のメカニズムなのか。
苦しい時には、差し出された小さな温もりがありがたい。
通常を取り戻したとたん、「そんな程度のものか!」と過剰を要求するらしい。


             ◎ノノ◎。
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2008年2月24日更新


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