アーサーおじさんのデジタルエッセイ396

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第396 老いた獅子


 半蔵門駅からJR市谷に向って幾つもの坂道を上り下りすると、靖国通りに出る手前に『東郷元帥記念公園』というところがあった。
黒いダウンを着込んだおばあさんが、公園にしつらえた運道具にしがみついて体を動かしている。
寒気団が押し寄せているので風が冷たい。
 実は水彩絵の具を持って来ていて、もし興がのれば一枚ものにしようかと思っていたのだ。
 薄い太陽が顔を出してきたので、その当たる場所だけは暖かい。
見ると、丸くしつらえた生垣に石像のライオンが一頭、鎮座している。
「東郷元帥に獅子か。ちょっといただけないなあ」と思う。
思うのだがライオンの顔を見るとしょぼくれて老いて、腹にはアバラが浮き出ている。
おまけにタテガミと後脚の一部が欠けて、エジプトの王の像のように思える。
石の像が「老いる」わけもないのだが、なんとなく好感が持てた。

その脚の欠けたところや生垣の絨毯に守られているところなら絵になる気がした。
少し離れたところにベンチがある。うまく使えば筆洗やパレットが載せられる。
太陽が少し当たるので、文字通り太陽に「背中を押されて」描くことにする。
子供たちが遊びまわり、おばちゃんが通り過ぎる。冷え込むので短い時間の処理が必要である。
およそ三十分だったか。
もう潮時。これ以上塗り捲っても無駄だろう。
引き上げる。この辺は妙に時代がかっている。
なにせ靖国神社の近くである。

             ◎ノノ◎。
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2008年2月3日更新


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