アーサーおじさんのデジタルエッセイ354

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第354 月を見る


 有名な図があって、女の人の頭部の姿が見ようによって、少女にも老婆にも見えるものがある。
見る人は経験によってものの受け取り方が違ってくるのであろう。
一種の騙し絵である。
また「ほら見てご覧、ここに人面があるでしょ」。
そういわれてネコの頭に人の顔を見つけたり、鯉の背中に顔を発見する。
この新たな、見直しをすることをゲシュタルト(視覚の認識)が変わるという。
 ま、それはともかく、ある夜、突然に「兎」が見えた話。
いつもの商店街を帰る夜。非常に凍て付いて寒かった。
このときに風邪をひきかかっていたのが後で分かるのだが、その時は、まったく天候のせいだと思っていた。
薄めのコートでは、危ういと思うほど冷気が身に応える。
早く家へ帰ろう。そう思いながら、賑やかな商店街の街灯を見上げた。
その時にくっきりと月が見えた。
それは全く商店街の街灯に同化してその一部を為していた。
ただ、こちらの歩みに連れて動くので、天の造形物と知れるのだ。

「あ」と声をあげた。
そこには、はっきりと一匹のウサギのシルエットが張り付いていたのである。
それは、知識やメルヘンとしてではなく、私の現実の体験として感じたのだ。
そうだったのか。
これが月のウサギだったのだ。
これまでは教えられる説話としてのウサギでしかなかったのに、この時は商店街の天に、街灯のように浮かんだウサギが見えたのだ。
私は古代人のゲシュタルトを獲得したのだ。
私はほとんど、幼児の目、原始人の目でそれを見た。
まさに満月は人を狂わせる−−人を始原に返してしまう。
そこでは体内の狼も復活するのかもしれない。

             ◎ノノ◎。
             (・●・)。

         「また、お会いしましょ」 2007年4月1日更新


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