アーサーおじさんのデジタルエッセイ346

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第346 こわくない


 その子供は、暗い天井を見つめながら幽霊の来るのを待っていた。まだかな。
え、何を言ってるんだい、ここにさっきからいるじゃないか。
幽霊は見るからに恐ろしい姿形をしている。
前に垂れて長くしなだれた骨ばった手は蝋のように半透明である。
風もないはずなのに細い髪が揺れている。
子供は震えながら、ああいたの、と思った。
声にはならなかったはずなのだが、幽霊は「そうだよ」と答えた。
 幽霊は恐いが、それ以上の悪さをしようという気は毛頭なかったから、子供は少しずつ慣れてくる。
そうすると幽霊は微笑んだ。
それはとても優しげで、こころが包まれるようであった。
幽霊の笑顔は邪心がない。
子供には理解しやすかった。

「話をきいてくれる?」
 幽霊は、もちろん、とゆっくり頷いた。
「きょう、恐いことがあったんだ」
 そう、どんなこと?
「起きているときに、夢を見たんだ。起きているのに見えるんだ。」
 ああ、それは白昼夢だね。
「公園のはしっこで、陽が当たっている土が乾いていて、草が生えていて、コンクリの壁に映った大きな木の影が動いている。いつまでも待ってたんだけども、誰も来ないんだ。どこにも誰もいないんだ。遠くで遊ぶ声がするのに」
 だあれも?
「そう。幽霊もこない。寂しかった」
 あ・・・。そこは私も行けないところだね。寂しかったね。
「うん恐かった、悲しかった」
 つらかったね。

 いつも幽霊は昼間のことをなぐさめてくれる。


            ◎ノノ◎。
             (・●・)。

         「また、お会いしましょ」 2007年2月3日更新


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