アーサおじさんのデジタルエッセイ30

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第30話 主語のない言葉


 穴の開いたチーズのように不完全な言葉で物事を考えることができるのだろうか。と、多和田葉子さんが言う。

 彼女はドイツに住んでいて日本語をアクロバットのように駆使した小説を書く。僕はスペイン語を習っている。スペイン語の文では主語を省略できる。ちょっと日本語に似ている。

でも日本語は時々主語が見えない。

こんな経験がある。会議室でクライアントの若手(若造)が「これは売り場に訊かなきゃいけないな」と言い放った。
 僕は、彼が訊いてくれるのだろうかと思った。違った。その場に居合わせた最も"身分の低い者"が「は、はい。すぐに調べます」と答えた。代理店のさらに下請けのスタッフだった。

 "主語がない"ことが、古い封建制をまだ支えている。正式の命令ではなく、力関係が"勝手に働く"ように言葉が作られている。 スペイン語では、主語は無い時でも動詞の活用が必須で、それが主語をほぼ完全に示す。「私は訊く必要がある」or「あなたは訊く必要がある」と、はっきり分かる。自然現象みたいな喋り方で、人をこき使う弁法はないのです。

             ◎ノノ◎
             ゜(・●・);

  「主語?く、難しい話だなあ」  2000年10月15日


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