アーサおじさんのデジタルエッセイ233

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第233話 秋のトイレ


区の大きな公園である。

本日は雨であり、深々と桜や欅が覆い茂ってやわらかいシェルターを広げている。

小雨になったが、こんな日に散歩に来てしまった。

人が少ないので何も考えずにランニングコースを踏んで歩いていく。

冷えたのかトイレに行きたくなった。

「公園のトイレ」は昔は清潔ではなかった。

今はずいぶん違う。

大屋根の下に広い空間があり、開放的に風が抜ける明るい空間に作られていた。

電気など点いてないがカラリと明るい。

トイレットペーパーも装備されている。

うれしかった。

ここでなければ随分遠くまで行かなければならなかっただろう。

静かである。

すっきりすると何かに感謝したい気がした。

そのまま天井を見上げると見えないはずの木々が見えるように感じられた。

風の動きや葉のそよぎが届くからだろう。神仙郷にいるのではないか?

これに一番近い感覚は、山奥の一軒屋の温泉宿。

その朝の外湯の気配である。

さわさわと峰を渡る風。

くっきり走る灰色の雲。

湯に飛び込む吹きちぎれ葉。

遠くの猿の喧騒。

僕らはいつも失ったものを感じることがある。

トイレのない世界。

猿の世界。

便利になる前の世界――かな。

なんだか、まんざらでもない。

雨ひとつでこんな時間に紛れ込むことができるなら。



             ◎ノノ◎   
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2004年10月9日更新


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