アーサーおじさんのデジタルエッセイ188

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第188話 アボカドの恐怖


電車のドアに押し付けられながら、ガラスの向こう側に過ぎ去るトンネルの壁を眺めている。
蒲鉾型の空間は内側から補強されたボルトの頭が仰々しく並んでいる。
なにか気になることがある。よく分からない。何か遣り残したような、ひっ掛かること。頭の中に雨の日の新緑のような美しい緑色が広がる。

そうだ!突然、理解した。『アボカド』が目の前に浮かんだ。確か先週の帰宅途中に、アボカドを二個買った。僕はアボカド博士であり、ひと目で、(ほぼ)食べ頃が分かるのだ。色で70%、そっと掴んで95%は食べ頃の奴を手に入れる。いつも、お店では食べ頃のアボカドを選んで買うようにしている。そして、その日は当日と2〜3日後用の“出来”を選んだのだった。片方は冷蔵庫の後ろに押し込んで、手前のものをその日に食べた。うーん、美味かった。そして、そのことを忘れ、今電車の中で復活したのだった。

あれは、一体どうなったのだろうか?もう一週間以上過ぎたのではないか。真っ黒の肌はよれよれになり、中身はゾンビのように黒くとろけてよじれてしまっているのだろうか。あー、あーどうしよう!なんで何回も過ぎた食事の時に思い出さなかったのだ。ペロペロに剥がれる皮を千切って、指に付いた緑色のクリーム体を嘗め、「うえっ」と言い、巨大なパチンコ玉のような核をゴミに捨てなければならない――のだろうか。

忘れてしまっていた過去。放っておいてはならないもの。冷蔵庫に入れたものは、決して消えずに、形を変えてもそこにある。もし、その前に物を詰めて覆い隠してみても、やがて腐敗し異臭を放つ事で報復するに違いない。それは、忘れる事が出来ない義務であり、いつか手を付けなければならない。アボカドは僕の「無意識」となって、巨大化して現れたのだった。

             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2003年12月1日更新


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