アーサーおじさんのデジタルエッセイ146

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第146話 『美女の養育』


偶然に立ち寄ったデパートの8階催場で、「大古本市」をやっていた。

さらに偶然にも時間が余っていたので、ゆっくりと本を眺めることが出来た。いろんな人が対象であろう。

まともな書籍も、怪しげな書籍もある。その“あやしげ”なほうに、昔の怪しげな雑誌のシリーズがある。

だいたいタイトルには「夫婦生活」という言葉が多い。そしてだいたい現代では普通のことが、真面目におごそかに重要そうに扱われている。

それでも、そういう情報は少なかったのだろう。買うのは当時のオタクだったのか。

その間にひっそりと、黄色く変色した箱入りの、ほとんど「岩波書店」風の『美女の養育』と言うタイトルが見えた。

ふんふん、よくやるよ。と思いながら通り過ぎたが、あとから考えると、案外真面目な本だったのだ。しかし、コーナーが悪い。ちょっと手が出なかった。

思い出せば、著者はカタカナで・・シュタ・とかあるから翻訳本であり、ドイツ人だろう。

そうなると、科学、医学、心理学、法学の国だから、大まじめに違いない。まして戦前だったらどうだ。

もしかしてヒットラーの強い勧めで書かれた、富国強兵の教科書かも知れない。ゲルマン女性における健康的身体と美の概念を同時に追求した医学書。

「美」の概念を、科学に持ちこむところがヒットラーらしいではないか。彼はドイツ人の“遺伝的優位性”と、“自己の価値観である美」”を融合させようとした気配がある。

本来、彼は貧乏美学生で、ミュンヘンの美術学校受験に3度失敗している。

かくして、ナチが第1党になり国民のカリスマ的信奉を集めてからは、人間の体の美に執着し始める。

1936年のベルリンオリンピックでは、全て美しい演出とプロパガンダで世界をうっとりとさせた。

そして才女で、ただでさえ美しいレニ・リーフェンシュタールをオリンピックの映画監督に起用した。1938年に『民族の祭典』『美の祭典』という2本の映画を完成させて、瞬く間に世界をナチに傾かせた。

自国の女性を自分の理想像に仕立てる事は、彼の本質的悲願であったはずだ。こう考えると、その本、ちょっとだけ眺めればよかった。

それにしても「タイトル」の力はすごい。

翻訳の力かな?直訳は実は「健康的女性の栄養学」だったりか?

プレステのソフトだったら、『美女の養育』はもっと想像しやすいのになあ。

             ◎ノノ◎。
             (・●・)。。

      「また、お会いしましょ」 2003年2月2日更新


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