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第1話 美人の湯 出雲風土記 玉造温泉(たまつくりおんせん)


 温泉事典第5巻は「温泉風土記」です。日本の古典には、温泉に関する文献が数多くあります。最近は各地の温泉場が客寄せのため「美人の湯」と銘打っていますが、美人の湯の名文は出雲風土記にあります。
 美人の湯に関するこれほどの名文が1300年も前に書かれていたなんて、本当に驚きますね。これから、湯の古典を風土記シリーズでご紹介します。
 今回から「いい湯鑑定団」に出雲の不動産鑑定士中村裕一が加わり、出雲風土記や山陰の名湯秘湯をご紹介いたします。お楽しみに

【出雲風土記の美人の湯】

なお、川のほとりに温泉がある。

温泉のあるところは、(潮の満ち干により)海にも陸にもなる。

だから、男も女も老いも若きも、ある時は道につらなり、ある時は海を浜に沿って歩き、毎日集まるので市が立ち、まじりあって宴をひらく。

ひとたび入湯すれば容姿がまばゆいほどうつくしくなり、再び入湯すれば万病がことごとく治る。

いにしえから今に至るまで、効き目がなかったことはない。

だから、土地の人は神の湯といっている。


原文

出雲風土記(いずもふどき) 意宇の郡(おうのこおり)

すなはち川の辺(へ)1に出湯(いでゆ)2あり。
出湯の在る所、海陸(うみくが)3を兼(か)ねたり。
仍(よ)りて、男も女(をみな)も老いたるも少(わか)きも、或(ある)は道路(みち)に駱駅(つらな)4り或は海中(うみなか)を洲(す)5に沿(そ)ひ、日(ひび)に集(つど)ひ市(いち)を成(な)し、繽紛(まが)6ひて燕楽(うたげ)7す。
一たび濯(すす)8げばすなわち形容(かたち)9端正(きらきら)10、再び沐(ゆあみ)11すればすなはち万(よろづ)の病(やまひ)(い)12
(いにしへ)より今に至るまで、験(しるし)13を得ずといふことなし。
(か)14、俗人(くにひと)15神の湯と白(い)ふ。
1川の辺:川のほとり。
2出湯(いでゆ):温泉の古語、ここでは玉造温泉のこと。
3海陸を兼ねたり:干潮では陸になり温泉が湧きで、満潮では海中に没することこであった。
4駱駅(つらな)り:絶え間なく行き来すること。
5洲(す):浜辺、しま。
6繽紛(まが)ひ:人々がまじり乱れていること。
7燕楽(うたげ):うたげ、「燕」は「宴」に通じる。
8濯(すす)ぐ:入湯すること。
9形容(かたち):容貌(ようぼう)や容姿(ようし)のこと。
10端正(きらきら)し:輝くように美しいこと。端麗(きらきらし)、端厳(きらきらし)などと同じ。
11沐(ゆあみ):入湯のこと。
12除(い)ゆ:除は癒のこと。
13験(しるし):効き目や効能のこと。
14故(か)れ:だから。
15俗人(くにひと):土地の人。その国(土地)に住む人。世人。


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