温泉物語6 温泉エッセイ No.1  2004年12月30日更新

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「温泉偽装問題」について                  温泉作家 簾田彰夫

 私が初めて温泉に入ったのは記憶によれば確か小学校4〜5年の頃、別所温泉のお寺(確か安楽寺と記憶)に宿泊、手習いの合間に別所温泉の共同湯「石湯」に何度か入湯した。

 荒削りの黒光りする大岩の間より源泉が掛け流し、強い卵臭の硫黄泉で子供たちには贅沢な温泉だった。

 近年、NHKの大河ドラマ「真田太平記」人気にあやかり「真田の隠し湯」と喧伝、大幅な増改築により、往事の雰囲気から遠くなった感は否めない。

 信州では子供も大人も何かのイベント(町内会の旅行、小中学校の登山、田植え稲刈りのあとの慰労会等)では必ず近隣の温泉行であった。

 先の別所温泉をはじめ、沓掛温泉、鹿教湯(かけゆ)温泉、戸倉上山田温泉 角間鉱泉、万座温泉、中房温泉等現在でも人気は変わらず、多くの名湯に子供の頃から接する機会があった環境に感謝している。

 さて、連日マスメディアで取り上げられている「温泉偽装問題」について思うところを記したい。

 この問題は白骨温泉の「入浴剤使用」に端を発し、「加水」「加温」「井戸水、水道水のみなのに温泉を表示」「無許可で掘削、温泉使用」「効能虚偽表示」等々。

 これらは温泉法の不備、経営者のモラル低下、湧出量の減少、枯渇、等が原因と考えられる。このような事態の発生要因はバブル全盛の頃からか、温泉経営者のモラルが著しく低下したことではないかと考えます。

 何故ならば、先代、先々代が苦労して守ってきた自然(天然)の恵みを入湯客に提供し、

喜んで頂き「いい湯であった」とお客の評価が全ての生業(なりわい)にあっては、「温泉偽装問題」は起こるはずがないからです。

 私のささやかな経験では、古湯、名湯に関わらず「いい湯」「いい温泉」に共通する要素は経営者、従業員の接遇がよく、湯を大切にする経営者の思いが無理なく伝わって来る湯宿です。

 初回はこの位にして、第2回よりエッセイの名を借りて「いい湯」「悪い湯」の見方、判断の仕方を掲載します。 

温泉問題を考えるために、「いい湯」と「悪い湯」を分類してみました。

種類
湯の名称
解     説
いい湯
1.天然自噴の湯 源泉から天然自然に湧き出している湯を加熱や加水、貯湯せずに、そのまま湯船に入れ、掛け流している温泉。
2.天然揚湯の湯 動力揚湯(ポンプアップ)した湯を加熱や加水、貯湯せずにそのまま湯船に入れ、掛け流している温泉。
3.正直の湯 上記1と.2.の湯を集中管理し混ぜてはいるが、湯船に注ぐ湯口で温泉成分を分析し掲示している温泉。
悪い湯
1.だまし湯 温泉が枯渇していることを隠し、水道水や井戸水を加熱して温泉と称し、入湯客をだましている温泉。
2.廃湯の湯 入浴前に体を洗った湯や、湯船からオーバーフローしてゴミが多く捨てるべき湯を回収し、濾過して薬品消毒した湯を湯船に戻すケースが見られ、関東の某県ではかって消毒さえすれば問題無いと指導していた。温泉としては最も汚(きたな)い湯。
3.使い回しの湯 内湯から別の内湯や露天風呂などに湯を使い回す温泉。湯を消毒せずに他の浴槽に使い回すのは極めて不衛生であり最も悪い湯の見本。
4.いつわりの湯 温泉法第13条では温泉成分表の掲示を義務づけているが、湯に入浴剤(発色剤)などの化学薬品を混入しこれを明示していない場合は虚偽の表示に該当し、入湯客をあざむく湯である。
5.循環汚れの湯 循環している湯は人の垢、体毛、大腸菌、O-157、などが付加され続け、濾過や強い塩素消毒を行っても湯の汚濁が進む。強い塩素消毒は人体を老化させ、無色透明できれいにみえるが病原菌などに汚染されている可能性があり、名湯・古湯であっても、レジオネラ菌汚染などの危険性から、絶対に飲泉してはいけない。もちろん、温泉としての医薬効能が全くない。

銭湯は毎日換水しているので、循環している温泉よりもはるかにきれいで、安心して入浴できる。                

6.水増しの湯 湯量を増やすため、水を加えた湯は温泉成分が変化し、いい湯とはいえない。日本人は焼酎やウィスキーの水割りを好むが、温泉水の水割りは入湯客をあざむく行為であり、いい湯とはほど遠い。
7.たぶらかしの湯 大半が循環方式であるが、一つの浴槽のみ源泉をかけ流して、天然温泉で飲泉可能などと広告している湯宿が急増している。湯宿内に一つでも循環湯があれば、循環方式を明示すべぎであり、これを怠るとあきらかに虚偽の表示になり、入湯客をたぶらかしていることになる。

温泉の偽装問題については、北條浩著「温泉の法社会学」お茶の水書房2000年5月刊が早くから循環方式を含めて現代の温泉のあり方についてすぐれた分析、提言を行っている。しかし、マスコミで温泉問題の第一人者と称される松田温泉教授や温泉問題の専門家がこのすぐれた著作を紹介していないのは、なにゆえであろうか。

次回以降の、いい湯、悪い湯のエッセイをお楽しみに!

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