日本鑑定トップ | レオナルド目次 | 前に戻る| 次へ進む

レオナルド・ダ・ヴィンチ素描集「カンバの林」

Study of a Coppice Study of a Coppice

Windsor Castle,
Royal Libray.

RL12431r

「カンバの林」
ウィンザー王室図書館蔵

紙に赤チョーク。19.3cm×15.3cm。1498年から1502年頃の作品。

<レオナルドの言葉>
自分自身を支配する力より大きな支配力も小さな支配力も持ち得ない。(H, 119.v)


 樹木は手を差し延べ、黙って包んでくれる 

 ヒマラヤ杉の木の下に立ったことがありますか? 大きな公園などに隅に、見かけることがあります。およそ杉とは程遠い、針の形の葉を持っています。青ざめたその葉の色は絵の具の「しろ」を混ぜ込んだ色をしてくすんでいます。私が言いたかったのはその葉の特殊さ、エキゾチックさではなくて、静けさです。

 木の幹に近づくと、足許には雑草がほとんど見られないはずです。樹影が濃くて太陽の光りが届かないからでしょう。そこにはなにがあるかというと、勿論その針のような葉が重なって絨毯になっているのです。なかには地面に突き刺さっているものもあるのでしょう。いつ、こんなにも針が落ちたのでしょう。その秘密は、ちょっとその気になれば分かります。しばらくの間、その「傘」の内側に立っていればよろしい。ついでに目を瞑ればよくつたわるでしょう。何が?まあ、まあ。目を閉じると、どこかで雨の音が聞こえて来ます。本当にささやかに「しとしと」と雨音がします。

 変だな、北の方角が少し雲って暗くなってはいたが、そんなに雨がやってくるほどとは思わなかった。と、感じるでしょう。それはこの高い高いヒマラヤ杉のてっぺんから降ってくる針の音なのです。常緑樹であるこの樹木では季節を問わず、巨大な葉の人口を交代させるために、すこしずつ、すこしずつメンバーを入れかえるオペレーションが進んでいます。それが高い位置からすべり落ち、シュルシュルとほんの小さな音をさせるのですが、樹木全体ではオーケストラのバイオリンとなって、その耳を包んで、雨のように聞かせるのです。

 本当の雨に日には、そこで雨宿りはできません。あなたの上から「針の雨」が降ってきます。ちくり、と髪の間の皮膚を刺します。腕を伸ばせば、腕を刺します。試してください。 レオナルドは樹木をその中から描いてはいません。彼の目は神の目に近いのでしょう。外から、程よい高さで見ています。でも「ちくり」という感じはうまく描くでしょう。彼も人の子だから。

 ところで、ヒマラヤ杉の話はどうか信じないでください。私の小さかった頃の記憶なのです。あれから木の横を通るだけで、その思い出を追認してはいないのです。忙しいからではなく、木の中の静けさが恐いのかもしれません。
         《アーサー記》


日本鑑定トップ | レオナルド目次 | 前に戻る| 次へ進む