アーサーおじさんのデジタルエッセイ462

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第462 画家は山火事をどう見るか?


 火事は主に社会的な事件である。
死者何名。
被害総額いくら。
原因は?
責任の行方は?
いろんな追求すべき要素が満載で世間を騒がす。
 しかしそれにもまして、すごいスペクタクルを世間に提供するのだ。
巨大な炎が轟轟とうねり上がる。
熱と水蒸気。
一帯は煙で真っ暗になる。
劇団四季の公演やブルーマン・ショーよりすごい。
それもいきなり始まる。
写真を撮るのも禁止されないし、やがて群集が集まり、サイレンが鳴り渡る。
夜ならばなお凄まじい。

 こういう自然現象に近いショーの要素を抽出してしまうのが、画家である。
霧と嵐と風と光の色彩画家、ターナーは突然に起こった英国国会議事堂の火災を何枚にもわたってスケッチし絵に残している。
それは、完全に光と空気の貴重なスペクタクルとして捉えられている。
決してロンドンで起こった事件としての記録ではない。
アメリカの水彩画家サージェントも、山火事の白い煙を美しい野焼きのように描いている。
 ところで画家は冷静なわけではない。
クロード・モネは自然の光の時間とともに変化する経過を描くのがライフワークとなった人だが、その果てに死も加えられるとは本人も知らなかった。
愛する夫人カミユの死の床で、その表情が変わることに気が付いた。
次第に青ざめていく。彼は慌てて、キャンバスと絵の具を持ち込んだ。
時間の経過による死の影響を彼女の顔に吹きかかる風の動きのように走る筆致で描いていった。
途中でふと「私は何をしているんだろう!」と気づいたかもしれない。
モネが見ていたのは、伴侶の死ではなく物体の変化であったのだ。

             ◎ノノ◎   
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」  2009年9月26日更新


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