アーサーおじさんのデジタルエッセイ33

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第33話 エジプトの雨


 かつて、昭和天皇が「雑草という名の草はありません」と言われた。天皇は植物学がご専門ではなかったか。

ある番組の中で中村玉緒さんが鵜飼を手伝い、その時に「"鵜"というものは、可愛想なものでございます。名前が1文字なんでございます。1文字なのは、鵜と蚊だけでございます。」と言って皆を笑わせていた。

 名前はその存在にとって重要であり、認識されず名前が無いことは「存在」の無いことにも通じる。

 あるいは、存在しないものには名前が生まれない。これは確認できていることではないが、エジプトには"雨"がない。言葉が無いのだ。「どうして?」と尋ねたら、「雨が無いからだ」と、通訳が教えてくれた。可哀想なエジプトの雨。

 かつて仕事でカイロ滞在中に、砂嵐のあと、地面に黒い染みがつくのを見た。
「雨だ!」エジプトに雨が降っている!
僕は周りの人間に叫んだ。

しかし、誰も騒ぐ者はいない。

街は埃にまみれた男や女達の相変わらずの罵倒と喧騒の連続。
「だって、本当に雨だ」ともう一言、伝えようとしているうちに、雨は終わり、染みは消えた。

彼らは気付かない。

言葉が無いものには、誰も気が付かない。そんなものか。

 「ボスニア・ヘルツェゴビナ」もこないだまでは存在しなかった。「アメリカ新大陸」も、かつては存在しなかった。「経済」も「神霊写真」も言葉とともに生まれたのかも知れない。

             ◎ノノ◎ 

            (・●・)ゞ

 

    「お布団がふえた」  2000年11月1日


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