アーサーおじさんのデジタルエッセイ323

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第323 マッシュルーム・カット


 聞いたこともない言葉を耳にした時、人は戸惑う。
そしてその言葉の意味する見知らぬ世界を手探りしなければならなくなる。
 僕が高校生の時、木製の床を数人で掃除していた。
帰る前の教室の掃除である。
僕は世間を知らないボーっとした男の子であった。
あまり相性も良くない背の高い生徒が、ふと僕を見ている。
攻撃を仕掛けたいのか。
それに気がついて「何?」と訊く。
何かいいあぐねている様子。
やがて、彼は僕をじっと見詰めながら「びーとるづみてぇ・・・」と言う。
僕は何が起きているか読みとれず、暫く黙り、それから再び「それ何?」と訊く。
彼はやはり、言い難そうである。
うん、がいじん。
「外人、の何?」うん、バンドといって音楽をするグループ。
「グループ?一人じゃない?」うん、ひとりじゃない、四人。
「四人!それに似てる?」僕はほとんど分からない。
どうして僕が外人なんだ。
そして、何故四人に似るのだろう。
うん、その髪。

「ああ、これ」僕は髪が伸びていた。
額のほとんどに前髪が掛かっていたのだろう。
 彼はほんとうのところ何が言いたいのか、立ちすくむほど分からない。
でも「びーとるづ」というものを見たことがない。
僕に何をしろと言うのか。
間を置いてから「それ、かっこいい?」と訊いた。
彼はポーカーフェイスで「うん、かっこいい・・」と答え、黙った。
僕に敵意を持っているのではなさそうだ。
ひと安心。
僕は再び、床掃除を始めた。

             ◎ノノ◎
             (・●・)。

         「また、お会いしましょ」 2006年7月29日更新


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