アーサおじさんのデジタルエッセイ293

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第293 世界に張り巡らされる壁


二十一世紀になると、ロミオとジュリエットの間に、壁が打ち立てられてはじめた。

長い間、会うことのなかった二人が、次に会うときには壁越しに違いない。

その壁は、お茶を飲むときも、レストランでも、ホテルでも付きまとうはずだ。

別々の席、あるいは部屋に通されるに違いない。

世間の要望で生まれ始めたその壁は、公共の場所から始まり、乗り物の中、そしてあらゆる世界の商業施設に広がろうとしている。

追い詰められているのはロミオだろうか、ジュリエットだろうか?

あれほど愛していたはずの二人自身が、今は不安に陥っている。

ロミオは自身の健康ゆえに、肺を守りたいと思い、ジュリエットは二人のデートのときこそ、一息ついて安らぎたい、とその瞬間を大事に思う。

かつての恋人同士は、今、喫煙者とそうでない者の壁を知ったのである。

昔は、その差があったとしても、どちらに属するかを世間に表明する必要などなかった。

今はどちらかが、自分を抑えて過ごす時間にしなければ一緒にいられない。

まるで苦しい人と人魚の恋愛みたいに、いずれかが自分を放棄しなければならない。

健康や人権という視点からその壁はもう、壊されるということはないだろう。

  

             ◎ノノ◎
             (・●・)

         「また、お会いしましょ」 2005年12月17日更新


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