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第23話 コンコルドの悲しみ 


 東京と大阪を2時間半で結ぶ、新幹線に「のぞみ」が開通した時、こころを弾ませてそれに乗ったものだが、失望した。なんと風景が見えないのだった。田んぼの畦道や工場の煙突、それらを目で追うと素早い首の体操を繰り返すことになるだけで、なにがあったか如何とも掴めないのだった。

 本来、交通機関の窓外の風景を幼児の頃から好きだった私。市電には靴を脱ぎ、鶏のように窓にしがみついていたものだ。家の軒先で涼む人、夕方の台所、伸びかけた作物、踏み切りを覗き込む子供や犬。そんなものを吟味しながら飽きずに時間が(距離が)過ぎていく。


 ところがどうだ。のぞみの指定席で過ごすひとときは全くの不毛で退屈な地震の時間である。ひん!ひん!と電柱が、フィルムを回すみたいに数秒分の1毎に飛んでいく。豊潤で味わい深いはずの巷の風景が混ぜきったメリケン粉みたいに同じ色だった。

 距離の移動というものは人の感知する限界があるのだと知った。フランス・NYを3時間ほどで、マグナム弾より早い速度で飛ぶコンコルド機は、何を見せてくれるのだろう。移動という労働を短くし尽くした「無駄」な時間を生むのだろうか。時間を凝縮せざる得なかったエリート達の冥福を祈ります。


             ◎ノノ◎
            (・●・)
              
        「日航機も15回忌でしたね」 2000年8月17日


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