アーサーおじさんのデジタルエッセイ201

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第201話 湯に眠るサル


今年は年賀状にサルが多かった。あの有名な温泉に浸かる地獄谷のサルの写真も多かった。

頭には雪が積もり、ピンク色の顔をしてうつらうつらと湯眠りをしている姿である。どら、私も入れてね、と声を掛けたくなる。

三十年ばかり前、僕は実際にそこに行ったことがある。

冬である。う〜んと山奥である。

今も変わらないだろう。

周囲には間歇泉の湯気が凍って地層となり、積み重なって七色に輝く崖がある。

いた、いた。

本当にサル達が温泉に浸かって眠りこけている。

一緒に入りたくとも脱衣場がない。あ、彼らは服を脱がずに入るので必要がないのだ。

ただ立っていると、足下からしんしんと冷気が体を冷やす。

靴が剣山のように刺さる。

あのサル達は、いったいいつになったら湯から出るのだろう。

うっかり入ったものの、濡れた毛の蒸発にあの山風が当たったら、もう堪らないはずだ。

彼らはバスタオルを持たないので、春になるまで湯から上がることが出来ないに違いない。

彼らも「ぬるま湯から出られなく」なるのだろうか。いやあ、地獄谷のお湯は熱いのだ。

彼らは、湯治のつもりが、湯当たりをして寿命を縮めるかも知れない。

また雪が舞って来た。

早く山を下りて暖かいところに行きたい。

僕は七色の雪を掬いながら山を下った。

   *********

PS)ところで、そんな平和な風景の中に、両手の無い小猿がいた。

木に登れず滑ってばかりいた。

胎児の頃、何かの薬物汚染による中毒に掛かって生まれたのだろう。

こんな山奥でも、汚染が忍び寄っていたのだ。

※「DDT」は, 1946年,稲の害虫ニカメイチュウに有効なことがわかり,1948年9月27日に農薬登録された。特に1960年から10年間は大量に生産され,全国各地で使用された。失効は1971年5月1日,農薬や家庭用殺虫剤としての販売が禁止された。一方,「BHC」の農薬登録は1949年2月24日,失効は1971年12月30日。しかし,両者とも1981年にすべての用途で使用禁止になるまでは使用され、いまだに土壌中に残留し,人体などを汚染している。(参考:池田博明『高校生物』)

             ◎ノノ◎   
             (・●・)

    「また、お会いしましょ」 2004年2月22日更新


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